「起業して5年で7割が廃業する」は本当か

経過年数別 出典 1件 / 統計 1件

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「起業しても5年で7割が廃業する」「10年後に残るのは1割」。起業について調べると、この種の数字がいくつも出てきます。しかも、書かれている値が媒体ごとに違います。

そこで出所を辿りました。結論から書くと、広く流通している「5年で7割廃業」という値の一次出典は確認できませんでした。一方、中小企業白書に記載がある数値は、それとはかなり異なります。ただしその数値にも、白書自身が但し書きを付けています。

80.7%
2023年版中小企業白書に記載されている、起業後5年を経過した企業の生存率
ただし白書自身が「実際より高めに算出されている可能性がある」と注記している
この数字の集計対象: 帝国データバンクのデータベースに収録された企業のうち、創業後5年を経過したもの。 データベース収録企業が母集団であり、日本で開業したすべての事業者ではない。
同一の人を追跡した数値ではありません。調査時点で経過年数がその長さだった人を集計したものです。

01 10秒で分かる結論

  • 「5年で7割が廃業する」という値の一次出典は確認できませんでした
  • 2023年版中小企業白書に記載があるのは80.7%という生存率です。
  • ただし白書自身が「実際の生存率よりも高めに算出されている可能性がある」と注記しています。この数値も鵜呑みにはできません。
  • 母集団は民間データベースに収録された企業です。個人事業主や小規模な事業者は反映されにくい構造になっています。
  • つまり「高い/低い」を断定できるだけの根拠が、公開情報の範囲では揃っていません。

02 出回っている数字がなぜ食い違うのか

起業の生存率として語られる数値は、少なくとも次の3つの意味で異なるものが混ざっています。

ひとつ目は母集団です。法人だけを数えたものと、個人事業主を含むものでは結果が大きく変わります。登記を伴う法人と、届出だけで始められる個人事業とでは、始めやすさも畳みやすさも違うためです。

ふたつ目は「生存」の定義です。事業を続けているかどうかを、登記が残っているかで見るのか、実際の営業活動で見るのか、売上で見るのかによって数え方が変わります。休業や事業譲渡の扱いも一様ではありません。

三つ目は調査時点です。数十年前に設立された企業を追った古い集計が、出典を明示されないまま「現在の生存率」として引用されている例が見られます。

これらが混ざったまま「起業の生存率」として流通しているため、同じ問いに対して8割とも5割とも1割とも書かれる状態が生まれています。

03 白書に載っている数値と、白書自身が付けた但し書き

2023年版中小企業白書は、諸外国との比較を扱ったコラムの脚注で、日本の生存率に触れています。そこに書かれている値が80.7%です。

重要なのは、白書がこの数値をそのまま提示していない点です。同じ脚注のなかで、データベースに収録される企業の特徴や、収録までに時間を要することを理由に、実際の生存率よりも高めに算出されている可能性があると明記しています。

つまりこの数値は、「日本で起業した人のうち5年後に生き残っている割合」ではありません。民間データベースに収録される程度の規模・形態の企業について、収録データから算出した値です。データベースに載りにくい小規模な事業者や個人事業主は、そもそも数えられていない可能性があります。

当サイトがこの数値の信頼度を A ではなく C としているのは、この理由によります。

04 「欧米より高い」と言えるのか

同じコラムは、欧米諸国の生存率が創業後5年を経過すると50%を下回ると述べています。数字だけ並べれば、日本のほうが高いように見えます。

しかし白書は同じ文のなかで、国により統計やデータの性質が異なるため、単純な比較はできないと釘を刺しています。母集団の取り方も「生存」の定義も国ごとに違うため、数値をそのまま並べても意味を持ちません。

「日本の起業は欧米より生き残りやすい」という結論を、この記載から導くことはできません。

05 このページで分からないこと

分からないことを、分からないまま書きます。

個人事業主を含めた生存率は、公開情報の範囲では確認できませんでした。「開業後に何年で廃業したか」を、届出ベースで全数把握した公的統計を見つけられていません。

また、廃業の内訳も分かりません。事業がうまくいかなくて畳んだのか、別の仕事に移ったのか、事業を売却したのか、後継者がいなかったのかは、生存率という一つの数字からは区別できません。「廃業=失敗」とは限りませんが、その内訳を示せるデータを当サイトはまだ持っていません。

該当するデータをご存じの方がいれば、お問い合わせからご指摘ください。出典を確認したうえで追記します。

06 よくある質問

起業して5年後に生き残っている割合はどれくらいですか?

2023年版中小企業白書に記載されているのは80.7%です。ただし白書自身が、実際より高めに算出されている可能性があると注記しています。この値をそのまま「起業した人の5年後」として使うことはできません。

「5年で7割が廃業する」という話をよく見かけますが、根拠はありますか?

当サイトでは一次出典を確認できませんでした。出所を明示せずにこの値を載せている媒体が多く、辿っても元の調査に行き着きません。根拠が確認できない以上、当サイトではこの数値を採用していません。

個人事業主だと生存率は下がるのですか?

そう言われることは多いのですが、当サイトでは根拠となる公的なデータを確認できていません。白書に記載のある数値は民間データベース収録企業を母集団としており、個人事業主の状況を示すものではありません。分からない、というのが現時点での回答です。

日本は欧米より起業が生き残りやすいのですか?

この記載からは判断できません。白書は諸外国の生存率が5年で50%を下回ると述べていますが、同時に「国により統計やデータの性質が異なるため、単純な比較はできない」と明記しています。

なぜ信頼度がCなのですか?

白書という政府刊行物に載っている数値ですが、母集団が民間データベースの収録企業に限られ、かつ出典自身が過大の可能性を認めているためです。当サイトは「どこに載っていたか」ではなく「どう作られた数値か」で信頼度を判定しています。

07 出典

起業後5年を経過した企業の生存率(2023年版中小企業白書)

調査
中小企業白書(中小企業庁)
表番号
2023年版中小企業白書 第2部第2章第2節 コラム2-2-3 脚注19
集計対象
帝国データバンクのデータベースに収録された企業のうち、創業後5年を経過したもの。 データベース収録企業が母集団であり、日本で開業したすべての事業者ではない。
信頼度
C(白書(年次報告)/掲載する図表ごとに調査主体・母集団が異なる)
取得日
2026年8月13日
次回確認
2027年6月
原典
e-Statの統計表を開く
コラム2-2-3:諸外国における起業後の企業生存率

コラム2-2-3〔1〕図は、諸外国における起業後の企業生存率の推移を比較したものである。
国により統計やデータの性質が異なるため、単純な比較はできないが、欧米諸国の生存率は
創業後5年を経過すると50%を下回っており、企業が長期的に存続することの厳しさがうかがえる19。

19 創業後5年を経過した日本における起業後の企業生存率は、80.7%である
(ただし、データベースに収録される企業の特徴やデータベース収録までに一定の時間を要する等から、
実際の生存率よりも高めに算出されている可能性がある)。

本ページは「中小企業白書」(中小企業庁)を加工して作成しています。

このページの最終更新日: 2026年8月13日